この記事は、「これからトレカ業界に携わりたいと思っている人の将来の参考に」という想いで実施しているインタビュー企画「トレカで生きていく」の第3回記事です。
不定期で、現在トレカ業界に携わって生活している人にお話をお伺いしています。
今回は、イラストレーターとして活躍されている、さいとうなおきさんにお話を伺いました。
※このインタビューは2025年5月1日に行われました。
第2回は「デネブログ」管理人:シルクさんです!

第1回は「株式会社flat-工房」代表取締役:須藤晃平さんです!

トレカのイラストを手がけたきっかけ
——トレーディングカードゲームのイラストを手がけることになったきっかけを教えてください。
僕は本当に偶然で、19歳の時なので、今から25年ぐらい前、当時はモンスターというか、モンスターですらない、なんかちょっとグロい絵を描いていて。
その当時は多分可愛い女の子とかを描く人もあんまりいなかったし、そういう需要も今ほどなかったんですよね。OKAMAさんっていうすごい可愛い女の子を描くイラストレーターが出てきたぞ、みたいな感じで、ちょっと美少女イラストみたいなのが出てきたくらいの時だった。それまではかっこいい男の人みたいな、イラストといえばそっちの方向だったんですよ。
で、僕はそっちの可愛い女の子みたいな方にあんまり頭がいってなかったので、結構かっこいいイラストみたいなのを意識して描いてた時期だったんですよね。
そうしたらちょうど、あの「デュエル・マスターズ」の立ち上げの時期に被っていて、「そういう絵」を描ける人を探していたアートディレクターさんが、たまたま僕の絵を見て、描きませんかというふうに言っていただいて。
——偶然だったんですね。どこに絵を公開していたのでしょうか?
ホームページですね。その頃、pixivやX(Twitter)はなかったので、ホームページしか、発表の手段がなかったんですよ。
僕の世代で、わざわざホームページを作って絵を発表している人ってあんまりいなくて。それをやっているだけで結構目立っていたと思います。それで見ていただいていて、この人だったら描けるかもしれないっていうことで多分連絡いただいたと思うんですよ。
——そうだったんですね。イラスト業界の横のつながりとかでもなく。
本当にたまたま。
——まだデュエル・マスターズというものが世に出ていない中、そういったお話をいただいて、当時どのように思われたのでしょうか?
「マジック:ザ・ギャザリングを作っている会社の新たなゲーム」という説明をされたので、すごいビッグネームが出てきたなと思いながら受けた記憶があります。
——一番最初に描いたデュエマのイラストは何だったんですか?
これはすごい印象深いんですけど、《超砲手ボルカノドン》っていう——

「月刊コロコロコミック」2002年5月号付録
——デュエマが発売される前のプロモですね! コロコロコミック買っていました。
はい。あれを描いて。結構もう本当にテンションが上がってたので、依頼されてからバーっと一気に描いて「これです!」みたいな感じで送った記憶がありますね。
——他にも有名なのありましたよね、確か・・・
ゼリー・ワームとかですね。

2002年7月25日発売 DM-02 第2弾「進化獣降臨」収録
出典:デュエル・マスターズ公式サイト
——それです! 特に依頼が来る文明に偏りなどはないんですね。初期の頃から水文明や光文明のイラストも見た覚えがあります。
文明は関係なかったと思うんですけど、僕の絵柄が多分ちょっと気持ち悪いみたいな印象があったみたいで。かっこいいとか、そういう印象は多分なかったし、まだ若手だったからというのもあったと思うんですけど、あんまりかっこいい感じのクリーチャーは任せられなかったなっていう悔しさはあった気がする。
——ボルシャック・ドラゴンとか。
そうそう。

2002年5月30日発売 DM-01 第1弾 収録
出典:デュエル・マスターズ公式サイト
でも、当時描けなかったと思うんですよね。そういうかっこいい要素を詰め込んで描くという技術がそもそもなかったので、言われても描けなかっただろうと思うんだけど、でも「うわー、こういうかっこいいの描きたいな」と思いながら眺めてました。
——それからデュエル・マスターズとは今までずっとコンスタントにお付き合いがある感じでしょうか?
コンスタントにというわけではなく、一時期ちょっと業界から離れていた期間がありました。意識的に離れてたか結果的にそうなっていたかはあまり覚えていないんですけど、30歳ぐらいから、カードゲームっていうよりはソシャゲの方をメインにしていったんですよ。
その状態だとカードゲームを受けられなかったので、そっちは断っていたっていうところはあったと思います。
トレカのイラストだけで生きていける?
——トレカのイラストだけで生きていくのは現実的でしょうか?
僕は最初トレカの収入だけだったんですよ、走り出しとしては。
若かったというのと、物価が今ほど高くなかったというのと、別に質素な暮らしでも良かったところもあって、暮らしてはいけましたね。数枚制作すれば、それだけで学生にとっては十分暮らせるだけの金額は稼げました。
——当時は、大学生ですね。
そうですね。引越しのバイトより将来につながるしめっちゃいいじゃんって思って、バイト辞めて、トレカだけにしましたね。
——何年ほどトレカ1本だったんですか?
その時は19歳で、学生だったんですけど、少なくとも就職するまではトレカだけでした。学生なので完全にフリーというわけではないですが。
ただまあ、会社を25歳ぐらいで辞めて、そこからしばらくトレカだけでやってみて、収入的にはそんなに変わってなかったんだけど、その時の感覚としてはちょっと不安だったんですよ。ずっとこれやっていくのかなって。限界が見えてきてしまって、もっと上を目指さなきゃいけないんじゃないかって。
それで、最初の1年ぐらいはトレカだけでやってたんだけど、ちょっとこれだと不安だなと思って、他のところにも営業をかけ始めたというか、仕事を受けるようにはなっていきました。漫画のカラーリングが結構大きかったです。でも相変わらずトレーディングカードは受けてました。
トレーディングカードって、とても良いのが、ひとつのコンテンツで描くと、その情報が他のカードゲームの運営にも結構伝わっていくのか、「この人カードゲーム描けるんだ」っていう感じで、他の発注とかも来るようになるんですよ。
で、カードゲームってどんどんエクスパンションが出ていくじゃないですか。だから3ヶ月ごとぐらいに仕事が毎回来るっていうルーチンができるので、それが何本かあるとかなり安定的に仕事が入ってきましたね。
——それはトレーディングカードのすごくいいところかもしれないですね。
はい。特に営業をかけなくても、「次は何枚かけますか?」っていうのが定期的に来るっていうルーチンができます。
——そんな感じなんですね。先方から「〜枚お願いしたいんですけど」ではなく、イラストレーターの稼働できる量に合わせて発注があるんですね。
「今回はこれを描いてほしいんですけど」という場合もありますけど、「今回は何枚かけますか?」っていう依頼が多いような気がします。
——報酬の発生のタイミングは納品時のみですか? 印税のようなものってあるのでしょうか?
印税はないと思った方がいいですね。
——トレカのイラストがどこかで使われていても、そういう場合は報酬は発生しないんですね。
例外中の例外で、「別のところで使ったのでお支払いします」みたいなことは多分あると思うんですけど、ただ契約的にそういう契約にはなっていないと思うんですよ。ほとんどの場合はイラスト買い切りで、自由にイラストを使えるというパターンが多いと思うので。
——イラストレーターさん同士の交流ってあったりするのでしょうか? ずっと一人きりで作業している世界なのでしょうか?
カードゲームのイラストレーターさんは割と交流あるパターンが多い気がします。ただ、基本的にはずっと引きこもって絵をずっと描いているという感じです。
最初の頃は特に交流があった記憶があって、今はあまり聞かないんですけど、合同打ち合わせ会みたいなのがたまにあったんですよね。「こういう世界観だから、これを意識してかっこいいイラストを描いてください」とか。そういうレギュレーション的なのをみんなに説明する場を設ける場合もあったりしました。
——メーカー側から開催されるということですね。
メーカーというより、発注する人たちです。メーカーじゃない場合もあります。例えばデュエル・マスターズであればウィザーズ・オブ・ザ・コーストさんが開発、タカラトミーさんが販売、発注は工画堂スタジオさんなので、工画堂スタジオさんがそういった説明をしてくれます。
——今、様々な新しいトレーディングカードゲームが増えてきていますが、それに伴ってイラストレーターの需要も増えていると感じますか?
トレカが増えれば増えるほど、それはイラストレーターの需要は上がると思うんですけど、僕の肌感ではそんなにトレカが増えたからといってイラストレーターが爆増したかといえば、そうは感じていません。むしろソシャゲの時の増え方がすごかったので、それと比較してしまっている可能性はありますが。あの時はすごかったです。こんなにイラストレーターっていたかなって驚きましたから。
ただ、入ってきている人は確実にいるとは思います。それと、よくSNSとかで見ていた、別のところで有名な絵師さんをトレカで見かけるようになったっていうのは多い気がします。
発注から納品までの流れ
——依頼が来てから納品するまでは、どのようなフローなのでしょうか?
まず、〜〜枚受けますと伝えると、発注書みたいのものが送られてきます。
——そこで、カード名や効果がある感じですね?
ない場合が多いですね。
——そうなんですか!? 何をとっかかりにして描くのでしょうか?
これはあくまで受注側の予想ですけど、バランスは後で調整するから、数値などはテキストはあえて伝えないんだと思います。ただ「こういう感じの効能になる」ようなことはあらかじめ決まっていると思うので、例えば「パワーを付加される」みたいな効能だとしたら、なんか剣を持っている人がいて、剣が光っていて、後ろにパワーを与えるおじさんが立ってます、みたいな、そういう指示はあることが多いですね。
——じゃあその剣とかも、イラストレーターさんが、今回はこういう剣を描こうと思って描いてるんですね。
そうですね。
——結構、ゼロから考えるんですね。
大体デザインから考えますね。ただ場合にもよって、それがすでに人気キャラであれば資料が送られてくるパターンもありますが、自分でデザインする方が多いと思います。
——そこから何往復かリレーして、イラストのチェックをする感じでしょうか?
やり取りの方法は、最初はFAXだったんですよ。20数年前ですね。1〜2年でそれは終わって、メール添付になり、今ではサーバーに上げる感じになりました。
これはかなり人によると思うんですけど、最初は多分「大ラフ」っていうふうに言われる、色もそんなについていない、ラフな構図を送るパターンがあるのですが……発注側はその段階で送ってほしいんだと思うんですよ。ただ、ちょっと分からないんですけど、イラストレーターって、イラストにすごくプライドを持っている人が多いので、例えば漫画家さんとかは、表情とかもわからないようなすごくラフな状態でポンっと送っちゃったりするんですけど、イラストレーターさんは、「もうこれは清書ですよね?」というようなやつをラフと言い張って送ってくるパターンが結構多いって聞いてます。だからもうリテイク出しづらいみたいな。笑
——大ラフがOKだと、次はどのような段階になりますか?
今度は「カラーラフ」という状態で、もうちょっとブラッシュアップした状態で出します。
——なんとなく色味がわかるような感じですか?
というより、「ほぼ清書ですよね?」っていうぐらいのやつですね。これなんかもう完成のイラストじゃんって勘違いするぐらいのやつを出して、それでオッケーが通ったら、ブラッシュアップして清書っていう形で出すっていう流れです。
——どのぐらいの期間がかかるのでしょうか?
2〜3ヶ月のことが多いと思います。
——納品したイラストが、カードになって発売されるのは、どのぐらい先になるんですか?
1年後ぐらいだと思います。
——え! そんなにですか!
僕の肌感的にはそんな感じです。早ければもうちょっと早いかもしれないですけど、大体1年ぐらい後な気がしますね。
——ドラゴン娘も、神アートで発表される1年前に描かれていたんですね・・・ドラゴン娘は、ドラゴンを擬人化して女の子になったイラストを描いてくださいという依頼が来て、という感じですか?
そうですね。
——それで、どんな髪型にしようかというデザインをさいとうなおきさんの方でされていると。
そうですそうです。
——さいとうなおきさんが、「このドラゴンを擬人化したいな」みたいなことは
それは指定があります。やっぱり企画に関わることなので。そこまで自由にはならないです。笑
トレカのイラストレーターになるためにしておくべきこと
——トレカ業界の担当者さんから、偶然依頼があったと仰っていましたが、その偶然を引き寄せるために、何をしておけばいいでしょうか?
トレーディングカードゲームのイラストレーターを目指している人によく聞かれるんですけど、公式が開催しているイラストコンテストに応募するのが一番確実じゃないかなと思っています。
最優秀や佳作といった賞に入らなかった人って、側から見れば「仕事に繋がらないんだろう」「狭き門だ」というふうに思われがちなのですが、全然そんなことなくて、「今回は入選から漏れてしまったけど後から仕事をお願いしたい」というふうなことってあったりすると思うんですよ。そうやって運営側に認識される可能性っていうのは飛躍的に上がるので、コンテストに応募するのが一番いいんじゃないかなと、僕は思います。
——SNSも先ほど話にあがりましたが、頑張った方が良さそうですね。
もちろんそうだと思います。トレーディングカードが最終的にやりたいことだとしても、他の業界でもいいから、表現の場があるんだとしたら、とにかくそこに出て、自分なりの表現をしていくっていうことが大事だと思います。
「なんかあっちの世界で目立ってる人だから、トレーディングカードゲームにこの人連れてきたら話題になるだろうな」っていう風に絶対なるじゃないですか。
だから最終的な目標に関わらず、どこでやってもいいから、とにかく表現するいうことが一番大事なのかなと思います。
でもそこを悩んでる方が割と多いんですよね。トレカがやりたいから、その方向だけにコミットしようとしてる人って結構多くて。それが一番の目標だとしても、時代の流れとかもあるから、需要がそこに今めちゃくちゃあるかどうかも分からないじゃないですか。だから自分が行ける方向に行っといた方がいいよと、僕は何事に関しても思うんですけど。
——直接ご相談とかもあるんですね。
質問コーナーを設けて、YouTubeとかで答えたりしているので、そういう質問が来ることは結構あります。
——さいとうなおきさんは、美大出身だと思うのですが、イラストレーターになるために、美大に行っておいた方がいいということはありますか?
いや、全然ないですね。
ただ、これは結果的に僕が美大を出ているから言えることなのかもしれないんですけど、ただ美大出身だからって有利みたいなことって全然なくて、結果的に絵が描けていれば発注がいく世界なんですよ、イラストレーターって。
だから学歴とか本当に関係なくて、実際に大卒の人を横目にすごく活躍している中卒の人、みたいなのも見てきているから。そういうコンプレックスやルサンチマンを抱えているとしたら、抱えたモノを晴らせる場かもしれないですよね。
ただまあ、美大や専門学校に行けば、それだけ周りに同じようなことに時間を使っている仲間がいっぱいいるし、ライバルもいっぱいいるから、自分を引き出すきっかけみたいなのは結構多く転がっていそうな気はします。
トレカのイラスト制作時の工夫や配慮
——使用しているツールについて教えてください。
大体フォトショップ(Adobe Photoshop)、たまにクリスタ(CLIP STUDIO PAINT)です。
——どう使い分けているんですか?
クリスタの方が線を引きやすかったり、線の中を塗りやすかったりするので、線と塗りのところだけクリスタにして、加工したりとかはフォトショップがやりやすいので、フォトショップを使っています。
——初心者、入門者におすすめのソフトは何がありますか?
クリスタじゃないですかね、やっぱり。そんなに高くないし、万人におすすめできます。株主になれば、株主優待で使うこともできます。
——プロユースのソフトと同じものが入門する段階で使用できるというのは、すごくいいですね。
めちゃくちゃいいです。僕が高校生の時にフォトショップを使った時には15万円だったので、一所懸命バイトして買ったんですけど、今はサブスクで月々数千円で使えるじゃないですか。
——トレカのイラストの納品時のルールはあったりますか? イメージして練習しておけるといいなと思うのですが。
カードの実物が小さいとはいえ、サイズが大きめで描いておいた方がいいと思うので、A4サイズぐらいで、350dpiで。あとは自分が好きなトレカのフォーマットがあるじゃないですか、枠だったり、テキストがこの辺に入っているみたいな。そういうのを自分なりに作っておいて、描いてみるといいと思います。
——そうか、テキストがイラストに被ることを意識して描かなきゃいけないんですね。
そうです。だから顔を下の方に描くっていうのはもう完全にNGなんですよね。
——その他にトレカのイラストを描くにあたって、特別な工夫や配慮はありますか?
絵を描くスキルとしてはそんなぐらいだと思うんですけど、結構苦しんでる人を多く見かけるので、「リテイクに対する耐性」みたいなところがあるような気がしています。
さっきの話にもありましたが、最初に不安だからめちゃくちゃラフを描き込んで出してしまって、でも全然違うからってリテイク出されると、「俺はイラストレーターとして価値がない……」みたいな、凹むっていう人が結構多いんですよ。冗談みたいに聞こえるかもしれないんですけど、本当にそれは多くて。
落書きみたいなものを出しちゃうと、自分でも最終的にどうなるか予想できないから描き込むんだと思うんですけど、自分がこのくらいで出しておけばフィードバックが来たとしてもそんなに傷つかないっていうラインを見つけるのは、カードゲームに限らず、イラストレーターにとって大事なんじゃないでしょうか。難易度は高いですけど、絶対に必要なスキルな気がします。
——自分の作風で大事にしていることはありますか?
カードゲームって印刷物は小さいので、ちょっとくすんだ色とかを使っちゃうと、結構沈んじゃって目立たなくなっちゃうんですよね。あとキラカードの場合はなおさらと思うんですけど、鮮やかな色を使っておかないと、遠目で見た時に映えないとか、すごく分かりにくくなるみたいなところはあると思うので、鮮やかな色を使うように心がけるのと、分かりやすくするというか、何描いてあるのかが分かりやすくした方がいいような気がします。
——どういうものが「わかりやすい」のか、正解の判断が難しそうですね。
漫画的な表現が1番分かりやすいんだと思うんですよね。パンチしているんだったら、すごく前に拳を突き出してバーンって。その表現ちょっと子供っぽいんじゃないの? っていうぐらい分かりやすくしておいた方が。遊ぶ人も子どもが多いですし。
けど、イラストを描き続けているとどうしてもアーティスト気質になっていって、どんどんちょっと変わった表現をしてやろうって、だんだん素人目には分かりにくくなっていく傾向ってあると思うんですよね。そうなっていくと、カードゲーム映えはしなくなりそうな気がします。
ただまあ、ちょっと一概には言えないですね。僕のこだわりかもしれないです、これは。例えばマジック:ザ・ギャザリングとかは、アートっぽい絵を描くイラストレーターも多いと思うんですよね。あくまで僕個人のこだわりの話として聞いてください。
——ですが、きっと最初からそう思われていたわけではないですよね? 長年イラストを描いてきて至った感覚というか。
元々僕がアート寄りの考え方だったので、デュエマにそれをすごく教えられた気がしますね。子どもに受ける絵を描いてこそなんだよっていうことを。直接言われたわけじゃないけど。
やっぱりレアリティの高いカードを描いている人たちの絵を見ると、めっちゃ分かりやすくて、かっこよくて、オーバーにそれを表現する、そして鮮やかに表現するっていう絵が多かったんですけど、僕はなんか気持ち悪くて地味な色ばかり使っていたので、これじゃ成長できないんだなっていうふうに反省しながら学んでいきました。
ただまあ、今になっては、そういう絵も印象深かったというか、良かったよって言ってくれる人がいるので、全部を否定するわけじゃないですね。
——今でもグロテスクなイラストって手がけられていますか? 可愛い女の子のイメージがあるのですが。
今はグロテスクなものは描いていないですね。
——いつ頃から可愛い女の子を描くようになっていったのでしょうか?
それはソーシャルゲームの絵を描くようになったからです。
——なるほど。それで、それを知ったデュエマの担当者の方が、可愛いイラストを描けることを知って、発注につながっていくというイメージですね。
そうですそうです。
——どんどんスキルや表現の幅を増やしていくと、色々な機会が生まれていきそうですね。トレカ以外にそうやって触れていくのも結構大事そうに感じます。
それはもう、絶対そうだと思います。
イラストレーターだけじゃないかもしれないですけど、柱は何本も建てておいた方が、1本が折れても安泰だと思うので。
やっていて良かったと思う瞬間
——トレーディングカードのイラストをやっていて良かったと思う瞬間を教えてください。
公園で子どもたちが遊んでいて、自分のカードとかを使っている姿とかを見ると、めっちゃ嬉しかったですね。
「俺が描いたんだよ」ってしゃしゃり出ていくのはちょっと不自然すぎるのでやったことはないんですけど。
——めっちゃ嬉しいんじゃないですか? それ言われたら。笑
いや、唖然とすると思いますよ。笑
だから、やったことはないですけど、そのぐらい嬉しかった。
——失敗談や、注意しておいたほうがいいことはありますか?
締切ギリギリになって、この仕事あったんだと気付いたことがあって、何も言わずに大急ぎでなんとか仕上げたことがあったんですよね。でもそういう時は、素直に「忘れてしまっていました」って伝えたほうが、発注者としても安心するというか。
信頼がありきの世界なので、そういうところも含めて、報連相ができているかどうかって、すごく信頼につながると思うんですよね。
——確かに、ちゃんと失敗した時に隠さず失敗したと言ってくれると信頼できます。
そう、ちゃんと連絡してくれるんだな。で、それを取り戻そうとしてくれるんだなっていうことも含めて、信頼を構築していった方がいいと思うので、今は忘れちゃってたっていうのも含めて正直に言うようにしてます。
実際に発注の人に聞いてみると、本当にどんな状況でもいいから、とにかくなんでも相談してくれた方が、こっちとしてはありがたいです。連絡が途切れるのが一番不安です。って言ってらっしゃったので、連絡をこまめにするっていうのは大事だなと思います。
トレカのイラストレーターを目指す人へ
——最後に、これからトレカのイラストレーターになりたいと思っている方にメッセージをいただけますか?
僕がちょっと後悔というか、弱いところって、イラストにすごく力を入れてきたあまり、カードゲーム自体プレイしてこなかったんですよ。
ただちょっと触れたりとかはあって、その時に改めて思ったんですけど、やっぱりプレイしている側だからこその「嬉しさ」みたいなのって分かってるじゃないですか。こういうイラストが来たら嬉しいとか、こういう効能の時はこういうイラストの方がエモいというか、このカード使う時めちゃめちゃテンション上がるんだよなっていう、プレイヤーだからこそ持っている経験値ってあると思うんですよね。
そこを貯めていくっていうのは一つ強みになる気がするので、僕がやれていなかったのにこういうこと言うのあれかもしれないですけど、いっぱいプレイした方が、イラストの強さにもつながるような気がします。
——なるほど、本日は本当にありがとうございました。非常に具体的に制作フローや意識していることを伺えて、業界の解像度が上がりました。
このインタビューが、トレカのイラストレーターを目指す人の参考になれば幸いです。
イラストを描く技術面については、さいとうなおきさんのYouTubeチャンネルがとても参考になるので、おすすめです!
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