この記事は、「これからトレカ業界に携わりたいと思っている人の将来の参考に」という想いで実施しているインタビュー企画「トレカで生きていく」の第4回記事です。
不定期で、現在トレカ業界に携わって生活している人にお話をお伺いしています。
今回は、ゲームデザイナーとして活躍されている、篠本涼さんにお話を伺いました。
※このインタビューは2025年5月12日に行われました。
※同じ記事内容を、他カード種の第二倉庫メディアでも掲載しています。
第3回はイラストレーター:さいとうなおきさんです!

第2回は「デネブログ」管理人:シルクさんです!

第1回は「株式会社flat-工房」代表取締役:須藤晃平さんです!

ゲームデザイナーとは
——篠本さんは、ONE PIECEカードゲームの「メインゲームデザイナー」として携わられていますが、そもそも「メインゲームデザイナー」とは、どのようなお仕事なのでしょうか?
ゲームの根本から細かいところまで考えています。ルール自体の設計を全て僕がやっていて、それを元にこれから作っていくカードの効果やステータスを決めていくような仕事です。
——0から篠本さんが考えられているんですね。カードゲームが作られる時は、ゲームデザイナー以外にどのような役割の人たちで構成されるのでしょうか?
メーカーさんのことについて僕からはあまり話せないのですが、弊社Next Playが行っているのはカードの効果やステータスを決めるところまでです。メーカーさんと話し合って、「この弾はこういうキャラクターを入れよう」といったことを決めた後、そのキャラクターたちに合った効果やステータスを作っていくような形ですね。
——「ONE PIECEカードゲーム」の発売記念配信では、篠本さんのほか、プロデューサーの後藤さんや、開発担当の小川さんといった方々もいらっしゃいましたね。
プロデューサーさんは色々なところとの連携を全てまとめてくださっている方で、他にプロモーション担当する人、大会や海外での環境を整備する人などがいらっしゃいます。
メーカー以外にも関わっている人たちはたくさんいらっしゃいます。
——「開運コロシアム」や「Cookie Run: Braverse」などもデザインされていますが、違いはありますか?
タイトルによって規模は様々ですね。
ワンピカードは一人回しでの開発から始まった
——ゲームデザイナーとしてここまでご活躍されるまでの経歴を教えてください。
まず僕のスタートは、高校卒業してからすぐに介護の仕事を始めて、そこから介護の仕事を辞めた後に、カードゲームを作る会社さんに入ったんですね。会社のメイン事業とは全然違うんですけど、サブ的なところでカードの事業部があって。
そこにそもそもヴァンガードで知り合った、すごく尊敬する方がいるんですけど、その方に僕がカードをやっている姿を見てもらった時に、「カードゲームの調整とかやってみない?」っていうお仕事のお誘いをまずされていて。
——何歳頃のことでしょうか?
21歳とかですかね。その頃はバリバリプレイヤーとして遊んでいるってだけで、仕事は介護しててみたいな状態で、その時にお話があって。ちょっと介護が僕のこれからずっとやっていきたいことじゃないなと思って辞めた時に、次何やろうかなっていうので、ずっとカードゲームやってきたので、誘われてもいるし、ということで入社して。
その時は正社員とかじゃなくて、業務委託としてテストプレイヤーとして入りました。そこから1年も経たないうちに正社員になって、そこでバンダイさんとの繋がりがあり、よくバンダイさんに足を運ぶことがあって、自分の顔とかを認知してもらっていました。
そこからその会社さんを僕は退社して、個人で色々やっていたんですね。カードゲームを作るっていうことも見据えながら、YouTubeや遊戯王の大会運営とか、個人でできることを最大限やりながら、いつか会社を起こしたいなと思って、メディアに自分の顔を出して、自分自身が広告塔になることで、何かチャンスを拾えないかという状態を作っていたんですよね。
その時に、「ONE PIECEカードゲーム」を作ってみないかというお話をいただいて、当時一人で、実際にルールを作ってみようと。その時はコンペ形式だったんで、多分色々な会社さんとかもお願いされていたと思うんですけど。
そして作ったものを実際にプレゼンして、提出したものが採用されてという流れでした。
——その頃はまだ法人ではなかったんですね。
バリバリ個人で。一人回しで作っていました。笑
一人で、自分で作ったルールを、<自分A>と<自分B>で遊ぶみたいな感じで一人で回して、どこに面白いポイントがあるのかとか、どこがつまらないのか、どこが難しいのか、どこが簡単なのかみたいなのを全部自分の中で細分化してやってましたね。
採用されてからはバンダイさんとあれが違うこれが違う、これが良いあれが悪いみたいな感じをどんどん繰り返して、今の「ONE PIECEカードゲーム」が出来上がったっていう感じですね。
——採用されてからリリースまでどのぐらい時間がかかるものなんですか?
ざっくり2年ぐらいですかね。リリースが2022年。僕が法人化したのも2022年です。
——2年もかかるんですね! 一人回しでルールを作っていくのはどのくらいかかったんですか?
一旦コンペに受かるところまでだけで言うと、1〜2ヶ月くらいですかね。
——思ったより早いですね。
取り急ぎは、「まず見せる」っていう期間があったので、そこまでに作ろうっていうので。自分一人だとできることもそんなにはないので、本当にただひたすら自分と自分で戦わせて、良い悪いを決めてみたいなことをやるのが大体1〜2ヶ月でした。
——カードラッシュさんスポンサードで、遊戯王のプロプレイヤーとしてもご活躍されていましたよね?
そうですね、直接お声がけいただいて、是非やりましょうという話で。バンダイさんでも自分のことを遊戯王のプレイヤーとして知っている方もいらっしゃったので、そういったところの信頼感にはつながったかなとは思います。
ある程度カードゲームで結果を残していて、それなりにフォロワーもいて発信しているんだったら、この人にならお願いできるかなというところも少なからずあったかなと思います。
カードゲーム制作の仕方とこだわりポイント
——カードゲームを作る際は、何から作っていくんですか?
他のカード開発会社さんやデザイナーさんと密に話したことはないので、人それぞれだとは思うんですけど、僕は結構「勝利条件」、「コストの支払い方」ですね。カードを出すために必要なコストと戦い方、そこを基盤にまず考えます。
そこから僕はカードデザインを考えちゃうんですね。カードフレームと言いますか、絵に描いちゃうんですよ。紙があって、長方形のカードを描いて、どこにコストが入って、どういう感じで出来上がるか、ざっくり頭の中でイメージするっていうところが第一段階にあって、それをパソコンとかでデータとして実際に打ち込んで、紙に印刷して、切ったものを他のカードに貼り付けたりスリーブの中に一緒に入れて実際にカードゲームとして遊んでみて、面白いと思うか、どこを削るのか、足すのか、というのを繰り返していくみたいな感じですかね。
——フレームというは、実際に印刷されるデザインとは別の話でしょうか?
それとは全然違いますね。取り急ぎ自分の中でイメージがつきやすいものを最初に作って、みたいな感じですね。一人回しをしてルールを調整する際に思考しやすくするためのものです。
——「ONE PIECE」だからこだわったポイントはありますか?
もちろん「ONE PIECE」の世界観を大事にするっていうところはもちろんそうなんですけど、ただルールとしては、気付いている人もたくさんいると思うんですけど、そんなに「ONE PIECE」じゃなきゃいけないところってないと思うんですよね。
今までONE PIECEらしすぎるゲーム、IPに寄り添い過ぎてしまっているカードゲームが多かったなと思っていて、それだとやっぱり、実際にカードゲームとして遊んだ時の面白さがちょっと足りなかったりすることがあって、僕は今回「カードゲームとして面白いものを作る」っていうのがまず基盤。ただそれはそうとして、「ONE PIECE」というIPを扱ってはいるので、ONE PIECEらしいものがなるべく落とし込めるように、効果で再現するようにあらかじめ決めて打ち出しました。
——リリースされた時にすごく感じました。「カードゲームになってる!」って。
僕は根っからのカードゲーマーなので、カードゲームとして面白いものを作りたいなと。
そういうところはおそらくバンダイさんも思っていて、僕の提案が通ったのは、時代柄っていうのもあるのかな、すごく運が良かったなとは思います。自分の考え方と時代が合っていて、かつそれを押し進めてくれたプロデューサーも僕はすごく良かったなと。
やっぱりプロデューサーさんによっては「IPらしさが足りない」とか、「そんなにカードゲーマーに寄り添っても、根っからのカードゲーマーの人ってそんなに多くないでしょ」とか、やっぱりよく言われちゃうんですよね。
そこを、僕を信じてくれたプロデューサーさんが、「いや、しのさんがそう言うんだったら、それでいきましょう」とか、結構僕に全部ベットしてくれる人だったので、そこが本当に良かったですね。
——そしてその判断がバチバチに時代に合っていたと。
両面カードという案が不採用の理由
——一人回しをしている中、泣く泣く削ったところや、日の目を見なかった要素はありますか?
いや、ないですね。「ONE PIECEカードゲーム」に関しては特にないです。他のカードゲームでは結構あるんですけど。
今から「ルールを作り直してもいいよ」と言われてもほとんどないです。別にゲーム性にそんなに関わらないようなところでちょっと直したいなみたいなところはあるんですけど、本当にそれぐらいですね。
——他のカードゲームだと例えば何がありましたか?
ちょっとニッチなところにはなっちゃうんですけど、コロコロコミックの付録の「開運コロシアム」を作っていて、20枚程度がそのまま入っている形で、今発売されている商品版とはルールの違う付録版で、それはそれですごく面白いものにできたし、後悔というか足りなかったというところはないんですけど、その際に別案として提案していた、ポーカーに近いような、コインをかけて戦うみたいなルールを作ったんですけど、「それはちょっと子どもには難しすぎる」ということで。
——笑
それはそうだって話なんですけど、僕は結構それ推しだったので、いつかどこかのタイミングで、何かの付録だったり、ボードゲームでもいいですけど、どこかに反映させたいなとは思っていますね。
——「ONE PIECEカードゲーム」は最初から完成度高めだったんですね。
高かったですね。もちろんコンペの時に出来ていたルールと、今あるルールとでは全然違って、結構調整が入っているんですけど、とはいえ後悔というか、ここはこうしたかったのに、みたいなことは結果的にはなかったですね。
——今、手元に「ONE PIECE CARD GAME 1st ANNIVERSARY COMPLETE GUIDE」があって、そこに書いてあったんですけど、「両面リーダー」の案もあったんですか?
ありましたね!
——これはコンペ後ですか?
これはコンペ後ですね。これは僕が辞めた方がいいと止めました。
——どうしてですか?
裏になるということは、何かしらの条件があって強くなるというのが基本だと思うんですよね。変わらなかったら多分裏返しても意味がないので。強くなるためには何かしらの条件が必要で、その何かしらの条件っていうのをシステムに落とし込もうとすると、簡単な見え方としては「やられてる側」「負けてる側」が強くなるのが一番理想じゃないですか。買ってる側が強くなっちゃったら当然どうしようもないし、となると「やられてる側」っていう状況を作らなきゃいけなくなるんですね。
で、対戦相手からしたら相手が強くなったら嫌じゃないですか。だから「やられてる状況」をあえて作らなくなっちゃうんですよ。つまり攻めづらくなっちゃうんですね。
——あ、膠着するってことですね。
そうです。なので気持ち良いゲームができなくなってしまう。とりあえず攻めて、相手を削っていって勝利に近づくっていうことのセオリーがちょっと難しくなってしまう。そういった懸念があって、取り急ぎは無しになりましたね。
もちろん他の条件とかで裏返したりとかも全然ありはしたんですけど、それはそれで今度は効果準拠になってしまうので難しくなってしまうとか、諸々の理由からですね、なるべく簡単にカードゲームをやったことがない人でもできるようなルールにしたかったので、削れるところを削りたいっていうのが強い意志で、裏面は無しという感じになりました。
一応、「ドラゴンボールスーパーカードゲーム フュージョンワールド」っていう今国内でも出ているカードは、裏面のリーダーがあって、それはもう完全にさっき言った、ライフが少なくなった時に裏になるってところなんですけど。
——「ドラゴンボール」! って感じですよね。
ドラゴンボールはドラゴンボールのIPとして、それはそれでそのいいのかなとは思うんですけど、じゃあONE PIECEがやられた時に強くなるかって言われたら、一概には言えないし、というところもあってですね。納得感とか、そういったところの複合的な意味もあります。
第二倉庫「ドラゴンボールスーパーカードゲーム フュージョンワールド」
カードゲームを作っていて難しいところ
——《ゴムゴムの実》みたいなカードは作られていないですよね。私だったら安易に提案してしまいそうです。
あんまりカード化する必要がないものはしていないですね。そのカードがあったら面白いとか、より原作的に近くなる、そういったメリットがあれば作ってもいいかなとは思うんですけど、そういったものはそんなに大きくなくて、例えば《モンキー・D・ルフィ》というカードがあって、それに《ゴムゴムの実》を装備するのか捨て札にするのかわからないですけど、そうなった時に、それがそこからルフィっぽくなるのかっていうと、ちょっと想像つかなくないですか? というところがあって。まあそれに加えて原作と交わった色々な問題とかもあるんですけど、デメリットの方が大きいってところも決定打ですね。
——そういったバランス感が大事なんですね。「ONE PIECEカードゲーム」は好きなチーム、例えば海賊と海軍が一つのデッキに入れられますが、そのあたりの世界観のバランスの取り方も難しそうです。「解釈違い」って言われそうだったり。
確かに難しいですね。そこはもう柔軟にカードゲームだからできることということで、オッケーとして考えていました。「解釈違い」はよく言われることありますね。
——笑。けれどそこが面白さのポイントの一つでもありますよね。カードゲームを作っていてほかに難しいと感じるところはどこですか?
いっぱいあるんですけど、一番感じるのは、カードゲームのコア層と言いますか、カードゲームにすごく慣れていらっしゃる方と、これからカードゲームを触れてもらう方、どこにアプローチするのかだったり、どこに落とし込むかがすごく難しいなと思います。
もちろんメーカーさんがベンチマークとする「こういった層」とか「こういったゲームに近い層」を取りたいっていうのがあるはあるんですけど、とはいえ、どうあっても結局「カードゲーマーには遊んでほしい。でも新規参入もほしい」って絶対言われるんですね。どんなゲームを作ろうとしても。
なのでそこの塩梅と言いますか、どうアプローチすればコア層にも遊んでもらえて、初心者にも遊んでもらえるゲームになるのかというところは常に課題で、常に難しいところですね。
——「ONE PIECEカードゲーム」の中で、気に入ってるデザインのカードはありますか?
これは結構ずっと言い続けていて、ブースターパック第1弾「ROMANCE DAWN」の《トラファルガー・ロー》OP01-047。

5コストのブロッカーで、第1弾のカードなんですけどまだ採用するデッキがあったりとか、効果面でもすごく強くて、かつ原作再現として、自分のキャラを手札に戻して、自分の手札から別のキャラを出す、ローの作中再現的なところもかなり落とし込めたかなと思うのと、効果も簡単で強くて、これは僕とは関係ないですけど、イラストも綺麗にハマったかっこいいデザインで、すごく気に入ってます。
必要なスキルやツール
——カードゲームのデザインを行うにあたって、必要なスキルやツールについて教えてください。
ツールっていうと特にはなくて、必要な考え方ですかね。僕がすごく全カード開発者に大事にしてもらいたいなと思うところは、自分が面白いと思うゲームに突っ走りすぎないようにした方がいいというところですかね。
やっぱりカードゲーム好きな人がカードゲームを作るじゃないですか。となるとやっぱり自分が好きなものになっていくんですけど、自分が好きなものが、世界中のみんなも好きなわけではないのはもちろんじゃないですか、そこの塩梅ですね。自分が面白いと思いつつ、それを客観的に見て、みんなも面白いと思えるかどうかというところの判断を、しっかりと常日頃やっていく。そのためには、最新のゲームとか自分が好まないようなゲームでもやってみる。そうやってどんどん自分の知識とか考え方をアップグレードしていく、そうして世間に好まれる、自分も好きなゲームをしっかり作っていくというところですかね。
——普段から、依頼はないけど作ったりとかしていたんですか?
いや、ないですね。ただ僕、小学校の時とかに自分で作ったカードゲームとかをみんなに配ってやってましたね。
——そこからだったんですね。
そこからでした。やってること変わらなかったです。大人になってからも。笑
でもそうですね、実際初めてルールを作るっていうのは、自分が前職いたカードを開発する会社では、研修みたいな感じで「ルールを作ってみましょう」みたいなのはあったんですけど、実際に自分が1からルールを作ったっていうのは、本当に「ONE PIECEカードゲーム」が初めてでした。
——そうだったんですね! 一人回しをしていく中で、カードリストみたいなものって整理していくのでしょうか?
そうですね。リストも整理はしていきます。ただ結構後回しにしちゃったりしますね。カードの効果とかってすぐ変わっちゃうんですよね。だからざっくりそのカードの、プロキシって言うんですけど、データをざっくり作って回して、オッケーそうだったらそれをリスト化して、みたいな順番で僕は作りますね。
——整理していくツールは何を使うのでしょうか?
大体エクセル、ワードくらいですね。
——プロキシ作るのもエクセルですか?
そうですね。結構雑にパパッと作って、それを枠で囲って、印刷して切って、ってだけですね。
どうしたらゲームデザイナーになれるのか
——どうしたらゲームデザイナーになれるんですか?
難しいですよね。どういう入り口からそうなるかにもよるのかなと思います。
僕の会社に入ってもらって、そこからデザイナーになるとかも全然できると思いますし、あとは他のカード開発会社さんに入るのもいいですし、僕みたいに他のところで培った経験と人脈と、知名度と言いますか、それで自分で会社を起こすっていうやり方もありますし。
でも何にしても、業界にはとりあえず入らないと始まらないとは思いますね。
——採用ページへのリンクを貼っておいてもいいですか?笑
もちろんです。どしどし募集しているので!
——最短ルートということで。笑
——ゲームデザイナーという仕事だけで、生活しているものなんですか?
僕の場合は会社も起こして、従業員が合わせて今22人くらいいるんですけど、これからもっと規模を拡大していって、今年40人、ゆくゆくは100人にしたいなと思っているんですけど、そのぐらいは成れるってところですね。
——想定よりも大きすぎて。
なので、夢はあると思います。笑
——フリーのデザイナーさんとかっていらっしゃらないものなんですか?
僕の知る限りでは、いるのですが、ただ完全な開発というよりはアドバイザーみたいな立ち位置になる方が多いのかなという感じですね。業務委託として「このルールをちょっと見てください」とか「フィードバックをください」「草案をください」とか、そういうのを手伝ってあげるっていうのはあると思うんですけど、僕らみたいにもう完全に運営として全部のカードを作ってとか、密に連絡を取り合ってとか、色々相談受けたりとかっていうのは、多分なかなか個人では難しいかなとは思いますね。
——あ、もう物量が、ということもですよね。
そうですね。やっぱりテストとかも絶対必要になってきて、いつまでも一人回しはやってられないので。笑
そう考えると、絶対人は欲しいってなってくると、じゃあもう今度は個人でできる範囲を超えてくるね、となって、基本的に法人になっていくと思います。
——「ONE PIECEカードゲーム」すべてのカードを貴社で作成していると考えると、確かに一人では難しいそうですね。
そうですね。できなくはないかもしれないけど、カードゲームって結構生き物というか流動的なので、どこかで綻びが出てきちゃうかなとは思います。
1回作ってそれを売りっぱなしとかだったら1回完璧なものを自分で何時間もかけて作って、リリースしてオッケーかもしれないんですけど、そこから毎弾毎弾作らなきゃいけないので、どこかで調整不足が出てきてしまったりとか、問題が出てくるとは思うので、そこまで考えるとって感じですね。逆にボードゲームとかだと個人でできるかなと思います。
——同人制作で制作・販売する方々っていらっしゃいますよね。クラウドファンディングとかでも。けどそれだと収益という観点で見るとそんなにでしょうか。
そうですね。定期的に新弾を作っていくものに関しては、収益性はすごく高いと思います。毎月のように新しいものが出て、作っているコストは紙を印刷しているだけなので。ただそれが売り切りのカードゲーム、ボードゲームとなると、1回作ってそれが売れたとしても、継続的にそれが変われるってことは多分どんどんなくなっていくと思うので、収益はどんどん下がっていくかなとは思いますね。
なので定期的に売れていくようなカードゲームを作ることができれば、収益性は高いです。ただその分バランス調整だったり、運営面で難しいことはたくさんありますね。
——そうなるとやはりカードゲームデザイナーという仕事は、チームでコンスタントに発売されるカードを作っていくというイメージが一番現実的ということですね。
ゲームデザイナーをしていて良かったと思う瞬間と失敗談
——カードゲームのデザインをしていて、良かったなと思う瞬間は?
常に良かったなと思っていて、毎日楽しくて、本当に辛いことが1日もないぐらい面白い仕事なので、本当にみんなやってくださいって感じに思うんですけど、それは一旦置いておいて、特に感じた時、もう実際泣いちゃった時があって、それがONE PIECEカードゲームの第1回世界大会が終わった時ですね。
自分の作ったカードゲームを世界中の人がやってくれて、それで世界一位が決まる瞬間っていうのは、本当にこう、なんだろう、分かんないですけど、報われたというか、本当に世界中でやってくれてるんだなっていう実感というか、それに加えてちょっと、その後藤プロデューサーがそこで引退の表明もあったんですけど、それも相まって感極まってしまいましたけど、その瞬間はすごく、とにかくやっていて良かったな感じた瞬間ですね。
——逆に失敗談はありますか?
失敗も逆に毎日のように失敗しているように感じているというか。ONE PIECEカードゲームで言うと、毎日のように新しいカードを公開していくんですけど、それに対するコメントとかもよく見るんですよね。今のゲーム環境とか、そういう話もよく見ますし、そうなるとやっぱり、批判的なコメントとかもやっぱりよく見ることはあって、その時に、もちろんそれで常にダメージを喰らってたらもう成り立たないので全然スルーする能力も、もちろんあるんですけど、ただ中にはすごいクリティカルな、開発目線で見ても正しいことを言っているな、なんでこうしちゃったんだろうなと思うこともたくさんあるんですね。
なので、そういうところを見つけると、ああ失敗したなとか、こうすれば良かったなとか、なんでこれ気付けなかったんだろうな、みたいなことはもう毎日のように感じています。
禁止カード発表の背景
——禁止カードの発表もありますが、あれは全く意図していたなかった使われ方によって強くなってしまったということなのでしょうか?
一概には言えないですね。色々な要因はありますね。おっしゃる通り、予期せぬ動き、予期せぬカードとの組み合わせとか、そういったところが理由となって禁止になるものもありますし、それとは別で、プレイヤーにとって不快感が強かったとかもありますね。
強さとしては開発で見ている目線では問題ない強さだけど、プレイヤーがカードを使われた時や、そのカードが入っている状態で対戦する上でのストレス値だったりが思っている以上に高いとか、そういったところは数字化はできないんですけど、本当に肌感と言いますか、意見としてよく見るものが多かったりとか、実際に自分たちがプレイしてみる感覚でやった時に、「やっぱりこれは確かにちょっと不快だね」「辛いね」とかだったり。
あとは初心者がやった時に、そのカードを使われるゲームプランをして、面白くないと感じてしまうとかもありますね。プレイの良し悪しでそのカードを攻略できるけど、良し悪しが分からない人は、そのカードにただただやられるだけとなると、初めてやる人がそのカードに対面した時に、ただやられるだけなので辞めちゃいますよね、と。
カードゲームに慣れてる人からすれば対処できるけど、みたいなカードはあまりよろしくはないと僕は思っているので、まあそういったところはあります。
——なるほど。それは気付かなかった視点でした。
結構それもカードゲームにのめり込んじゃっている開発者さんだと気付けないところでもあるのかなと思いながら、そういう気持ちじゃまずいなと。
——確かに、そういう状況が続くとコンテンツとして先細りしていきそうです。
やっぱりどうしても新しい方が入ってくれないといけない業界というか。それはどこも一緒か。
カードゲームデザイナーを目指す人へ
——これからカードゲームデザイナーを目指したい人に向けてメッセージをお願いします。
作り方次第だとは思うんですけど、基本的にはメーカーさんがいて、下請けというか、カードを作る会社がいて、個人がいて、というところからスタートすると思うんですけど、その時に、対等であるというか、ある程度負けないで欲しいなと思うところはありますね。
というのも、やっぱりメーカーさんの方がもちろん上だし意見を尊重する必要はもちろん一番なんですけど、そのせいでゲームが面白くなくなってしまったりとか、プレイヤーのことが考えられない方向に向かっているとかっていうのもたくさんあるとは思うので、そこで自分の意見を曲げてしまうとかにならないならないほうがいいかなと思います。もちろん曲げなきゃいけない時もあるんですけど、最初から曲げてしまうのではなくて、自分の意思をしっかり持って、自分が面白いって確信できるものが作れたのであれば、そこをしっかり守っていく。で、そこになるべく向こうの意見も合わせて柔軟に取り込んでいく。それでやっと面白いゲームができるのかなと思うので。
自分の意思を強く持って頑張ってもらいたなと思います。
——遊ぶ人のために作ってますからね。
そうです、そうです。
——それはメーカーさんも同じで、同じ方向を目指してるはずで。
そうです。なので、自分の意見を押し付けたいっていうわけではもちろんなくて、ただやっぱり、結構負けがちかなと思うので。メーカーが上、自分が下ってなると、「そっちの意見が正しいのかな・・・」ってすぐ折れそうになるのかなと。過去の僕は結構そうだったかなって。
前職でカードを作った時は、メーカーさんの言っていることに対して、「そうだよな」って、鵜呑みにするタイプというか、そういう状況で。その時に、やっぱり辞めとけば良かったなということはよくあったので、一つ、アドバイスとして。
——なるほど、本日は本当にありがとうございました。気になるトレーディングカードゲーム制作の裏側が伺えてとても参考になりました。
このインタビューが、トレカのゲームデザイナーを目指す人の参考になれば幸いです。
最短ルートは篠本さんの会社に入社することです!笑
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